お代はラヴでけっこう

【原神考察】雷電五箇伝と散兵の「心」

  • URLをコピーしました!

テイワット大陸の南東に位置する唯一の島国・稲妻。
その国は、他にはない独自の文化を持っています。

そのうちの一つが侍。魂を刀に込めて戦う戦士たち。

そして、彼らが扱う刀を打つものの中に特に名の知れた5つの流派がありました。

その名は「天目」「一心」「百目」「千手」「経津」、人呼んで「雷電五箇伝」と呼ばれた五流派は、伝承によると、かつてある浪人が5つの鍛造技術を5人の弟子に教えたことが始まりとされています。

しかし、歴史の流れのうちにこの5流派は衰退し、現在残っているのは天目流のみ。

一心は血族のものが生き残っていますが、流派としては衰退し、他の3派は消滅してしまっています。

このため、五箇伝を統括する社奉行は責任を問われ、お家断絶の危機に問われましたが、鳴神神社の宗主である八重神子の介入により助かりました。

稲妻の刀剣は古来より世に知られており、「雷電五箇伝」は国にとっても重要なものである。
だが、わずか数年のうちに五つの伝承はそのほとんどが失われた。
無数の有力者がその陰謀に巻き込まれ、関与した一族は皆、責任を負って追放された。
この一件により社奉行の神里家でさえ、部下の監督不行き届きで責任を問われることとなった。
だが、将軍が最終的な判断を下す前に、長いこと政事に関与してこなかった宮司様が突如将軍に進言した。これにより、嵐の中にいた神里家は救われたのである。

―――八重神子「キャラスト5」

さて、現在の稲妻において、この雷電五箇伝が壊滅した理由は、時の流れゆえのことと一般には流布されていますが、真実は異なります。

この出来事にはある「人物」の影がありました。

そのことを知るにはまず500年前に遡る必要があります。

「人形」の誕生

今からおよそ500年前のこと。
稲妻全土を漆黒の軍隊が襲来し、あまたの稲妻の人々が犠牲になりました。

そして、その犠牲となったものの中にはカーンルイアに赴いた初代雷神——雷電眞の姿もありました。

眞を失い、その跡を継いだ当代雷神こと雷電影は「永遠」の道に至るための手段として、肉体を捨てることで精神の「摩耗」を防ぐとともに、その依り代として「雷電将軍」という人形を作り上げました。

しかし、影はこの「雷電将軍」を作る前の練習としてプロトタイプの人形——今の名を「散兵」——を作り上げました。

影は当初は人形に「神の心」を収納するスペースを設けていましたが、実際に出来上がった人形は心を受け止めるにはあまりにも脆いことに気が付き諦めます。

そのため、次作の「雷電将軍」には神の心を入れることを諦め、最終的にこの神の心は影向山の大社に住まう八重神子に元に送られることになりました。

彼は最初、「心」の容器として生まれた
しかし、夢の中で涙がこぼれた。
創造者は認めたくないが、それに気づいてしまったのだ。
彼は器物としても人間としても、あまりにも脆いと。

彼を破壊できずに躊躇した創造者は、そのまま眠らせることにした。
それ以降、彼女は心臓を収納するという設計を諦めた
それからすぐ、世間でもっとも高貴で尊い「証」が、
置き場所がないため、影向山の大社へと運ばれた

―――衆生の歌(聖遺物物語)

彷徨う「傾奇者」

影は、失敗作とはいえ自分が作り上げた人形を壊すことに忍びなく、「彼」を封印しました。

しかし、封印に異常が発生し、「彼」は目覚めました。
そして、記憶を持たないまま稲妻全土を彷徨い歩きます。

誕生の時すでに至高の美を有していた「彼」は、
長い「時間」と空っぽの「意志」を持つ運命にあった。
神が創造した超越者であるにもかかわらず、役立たずとして捨てられた。
未知なるエラーで「休眠」から目覚め、
天地と凡人の世界を渡り歩いた。

―――超越の盃(聖遺物物語)

記憶を思い出そうにも、そもそも最初から記憶が存在しない「彼」。
そんな「彼」をたたら砂を見回りしていた桂木という人物が拾います。

たたら砂に残された手帳

桂木は、たたら砂の刀鍛冶にして、幕府に仕える御輿長正という人物の部下でした。

この御輿長正は、雷電将軍の部下であり友でもあった、鬼の娘「御輿千代」の養子です。

あわせて読みたい

この時、御輿家は母親の千代が「漆黒」に侵されて正気を失い、雷電将軍に反逆したために、その責を問われて没落寸前の危機に陥っています。

そのためか、長正はお家復興のために苛烈を極めた性格になっていました。

また、たたら砂を拠点として、長正と桂木達は刀剣技術を磨き、「大たたら長正」という名刀を作り上げています。

この桂木たちと「彼」がどのようにたたら砂で過ごしていたのか詳細は分かりませんが、砂浜でともに美しい剣舞を踊るなど穏やかな生活であったと思われます。

たたら砂に残された手帳

しかし、そんな生活に転機が訪れます。
「彼」の正体が明らかになってしまったのです。

長年流浪してきた傾奇者は、もうそのことを思い出さないだろう。
しかし目を閉じても、たたら砂の月夜や炉火が見える。
若く、心優しい副官が言った。
「この金の飾りは、将軍から授かった身分の証である。」
「世を渡り歩く時、やむを得ない場合を除き、」
「身分を決して他人に明かしてはならない。」
剛直な目付が言った。
「この金の飾りは将軍から授かった身分の証。
だが、あなたは人間でも器物でもない。
このような処遇となり心苦しいが、どうか恨まないでいただきたい!」

―――華館の羽(聖遺物物語)

「彼」を拾った桂木(若く、心優しい副官)は、その正体を知りながらも彼をかばいます。

しかし彼の上司である御輿長正(剛直な目付)はそれを許しませんでした。
恐らく、母の千代のことがあった彼は些細な不安材料でも払拭しておきたかったのでしょう。
長正は「彼」を処分しようとします。

ところが、桂木はその優しさから、そのようなことが見過ごせず「彼」を逃がしてしまいます。

桂木からすれば命が失われるのは忍びないとの善意でしたが、その命令違反に激怒した御輿長正はなんと彼を「大たたら長正」処刑してしまったのでした。

この出来事がきっかけとなり、この「大たたら長正」は後の世に桂木を斬った長正・・・桂木斬長正として伝わることになります。

この後の「彼」は、たたら砂の人々を救うために神社や稲妻城に向かっています(たたら砂の人々はオロバシの残滓により慢性的な病気にかかっている)。

「流浪者、流浪者、どこ行くの?」
流浪の少年は子供の声を聴いて立ち止まった。
彼はたたら砂の労働者の子供病気をしていても、澄んだ目をしていた。
少年は子供に、自分がどうしても稲妻城へ行かなければと言った。
「しかし、今は大雨だし、この前出た人たちは誰も戻っていないって彼らが言ってた!」
少年は口を開き、何か言おうとしたが、結局微笑みしかできなかった。
彼が再びこの島に足を踏み入れた時、子供の姿はすでに消えた。

―――形骸の笠(聖遺物物語)

昨日を捨てた傾奇者は、もうそのことを思い出さないだろう。
しかし、耳を塞いでも、その時の豪雨や嵐が聞こえてくる。
期待に満ちた目をした者が言った。
「この金の飾りは将軍から授かった身分の証である。」
きっと人々を苦しみから解放できるだろう。」

美しくて活気がある巫女が言った。
「この金の飾りは将軍から授かった身分の証である。」
「将軍は決してあなたを見捨てない。」
「私も最善を尽くし、即刻の救援を手配する…」

―――華館の羽(聖遺物物語)

そして、また「彼」は様々な人々と交流するうちに、自身も「心」を強く求めるようになります。
恐らく、元々が心の容器として作られていたのも影響したのでしょう。

その後、美しい人形が目を覚まし、流浪を始めた。
彼は、様々な心を見てきた。
善良なもの、真面目なもの、毅然としたもの、温和なもの…
人形も、心臓を欲しがっていた。

―――衆生の歌(聖遺物物語)

また、「彼」は神社にも訪れていることから八重神子とも面識があり、八重神子は「彼」が「心」を欲していたことを知っていたからこそ、魔神任務の際に「神の心」が取引材料になることを分かっていたのだと思います。

執行官との出会い、復讐の旅へ

さて、時間を再び過去の稲妻へ戻します。

「彼」は稲妻を彷徨う途中にファデュイ執行官に出会ってしまいました。
そして執行官の力――恐らくは「博士」——の手によりその封印された力と意思が解放されました。

己の意志に目覚めた「彼」が為そうとしたことは、自分を拾いそしてかばってくれた桂木に報いるための復讐です。

彼は、御輿長正が刀鍛冶であったことを知ると、その系列に繋がる雷電五箇伝を全て滅ぼそうとしました。
もっとも、意思に目覚めた「彼」は自身を人間を超越した存在だと知る故に、「たかが人間」のために復讐しようとするなど決して認めたりはしませんが・・・。

僕はすべての人間を越える「人間」、神でさえも僕の運命に干渉できない。
人も神も運命も僕を裁く権利はない。
どのように残りの寿命を過ごすかは、僕の自由だ。

―――超越の盃(聖遺物物語)

天目、経津、一心、百目、千手、
それは、かつて「雷電五箇伝」と呼ばれたもの。
しかし、今は「天目」だけが伝承されている。
「一心」にも、かろうじて後継者はいた。
民衆の考えでは、これらは単に時間の流れが招いた必然の結果。
突如として訪れた衰退に、何か秘密が隠されているなど思いもしなかった。

流浪者は決して認めない
自分が成したことは、刀職人への復讐のためであったと。

―――夢醒の瓢箪(聖遺物物語)

「彼」は稲妻の裏で暗躍し、雷電五箇伝のうち「百目」「千手」「経津」を滅ぼした彼は、4つ目の流派「一心」を陥れる姦計を巡らせます。
一心流が命じられた御霊刀の鍛造を妨害するために、古代の鍛造図を改ざんしました。

改ざんした鍛造図でどれほど刀を作ろうと成功する道理はありません。
一心流の弟子たちは、幕府からの処罰を恐れ逃亡を図ります。

楓原万葉の曽祖父である義慶は、当時の一心流の一員にして当主であったため、脱走兵を負い砂浜に向かうと、そこで待っていたのは一人の傾奇者でした。

傾奇者は、自身が雷電五箇伝を滅ぼす者であると告げ、その場にいたものを討ち果たします。

そして、最後に義慶を殺害せんとしたとき、彼の顔を見た傾奇者は振り上げた刀を下ろし、こう尋ねました。
お前と「丹羽」は何か関係があるのかと。

義慶は「丹羽」は父の旧姓であり、今は楓原家の養子となった――すなわち丹羽の血縁であることを告げると、自身の名が「国崩」であると丹羽に告げるように言い、その場を立ち去りました。

国崩とは、歌舞伎演目において一国を転覆させる悪人役のことです。

この「丹羽」については、一心流の高弟である以外に情報がなく、国崩とどのような関係があったのかは不明ですが、状況から推測すると桂木家の子孫なのではないかと思われます。
現在の岩蔵流が「御輿」の名を捨てたように無礼打ちをされた桂木家が家の名を変えても不思議ではないように思えます。

自身の仇がかつての仲間の子孫であると知った彼は、復讐を諦めました。

そして当然、これも口にはしないだろう、
計画も半ばのところで、急に興が乗らなくなってしまったことを。
彼はある学者から習ったような口調でこう言った。
「すべては、人間の本質を知るための小さいな実験に過ぎない。」

―――夢醒の瓢箪(聖遺物物語)

そして、これ以降国崩による雷電五箇伝消滅計画はなくなりましたが、楓原家は鍛造から手を引いたために、五箇伝で唯一残ったのは標的にされる前に収まった天目流のみとなっています。

「国崩」のその後

復讐を取りやめた国崩は、執行官の正式な仲間となり、以後「散兵」を名乗ります。

そして、モンドと璃月を騒がせた隕石昏睡事件「帰らぬ熄星」で旅人と初の顔合わせを果たしました。

あわせて読みたい

その後、稲妻に渡り淑女に協力をしていましたが、思わぬ形で神の心を手に入れた散兵はファデュイから離反。

神の心を持ったまま失踪しました。

Ver2.2イベント「謎境一騎」において登場するタリタリヤは散兵を追って稲妻に渡りましたが、未だに行方は掴めていません。

また、楓原万葉は復讐のための過去には囚われない主義ではありますが、旅人と「国崩」の間に因縁がある以上は、対峙するその時に現れてくれるかもしれません。

そして鍛造失敗の原因を知った今は、新たに「一心流」を再興することもできます。

「光華容彩祭」イベント中に手に入る「古代の鍛造図」稲妻文字で書かれているため翻訳可能で、左下に書かれた「血石華」と「紫水晶」の部分が滲んでいるため、恐らくこの部分が改ざんされた材料なのでしょう。

「国崩」の真の望み

国崩は自身が完璧となるために神の心を求め、ついにその目的を果たしました。
それにも関わらず、彼は未だに望むものを手に入れていません。

そして美しい人形はついに、その「心」を手に入れた
それは彼の誕生の意味であり、存在の目的である。
しかし、それは人形が本当に望んでいた物ではなかった。
なぜなら、それは祝福が一切含まれていない
ただ友好的な外見に包まれた、
自分勝手で、偽善的で、狡猾で、呪いに満ちた供物
善と悪、全てが衆生の物語、無用なものでありながら騒がしい。
しかし、この「心」を掘り出せば、
もう何も感じられなくなる…

―――衆生の歌(聖遺物物語)

神の体に神の心――本当であれば彼自身が神に成り代わることもできるはずです。

しかし、恐らくは彼自身も気が付いていないのでしょう。
或いは、復讐の理由を認めなかったように、気が付いていても認められないのかもしれません。

国崩が本当になりたかったもの――それは「神」でも「完璧な存在」でもない――ただの「人間」であるということに。

「執行官様、どちらへ行くのですか?」
少年は騒がしい人間が大嫌いのため、部下の顔を殴った。
しかし、少年は怯えた無力な人間を観察することを何よりも楽しんでいた。
この愚かな部下が彼のそばにいられるのも、部下の表情の豊かさが原因だろう。
「ヤシオリ島へ行くのか、何しに行くんじゃあ?」
婆は深く考えていない。ただ最近はどこも物騒だった。
少年は、「人との約束があるから」と言って、心からの笑顔で彼女の気遣いに感謝した

―――形骸の笠(聖遺物物語)

国崩は我々の感覚では間違いなく「悪」でしたが、元々人形として生まれ、そしていびつな環境に置かれていた彼にとって、そもそも「正しい」ことを知ることができなかったのかもしれません。

ただ一つ言えることは、彼は人間を見下しながらも、その見下している人間に深い興味を持っているということ。

そして、もう一つは彼の物語は終幕に向かっているということです。

稲妻の伝統的な芝居は、三つの幕の名前を繋げ、それを芝居の題目にすることが多い。
(中略)
もしかしたら、この形骸が経験してきたことが、
いつか人間の間で語られる物語となり、地脈の遥かな記憶になるかもしれない。
ただ今は、彼の第三幕がまだ語られている最中だ。

―――夢醒の瓢箪(聖遺物物語)

自ら悪役である「国崩」を名乗る彼と旅人たちの激突は絶対に避けられないでしょう。
しかし、もしも彼が自身の真の望みに気が付き、そしてそれを認めることができる日がくるとすれば・・・。

歌舞伎演目「人形の物語」 

これは私がゲームのストーリーから着想を得た個人的な題目です。

歌舞伎の演目は三幕に分かれる。これはとある「人形」の演目だ。

第一幕は「無名」
名もなき傾奇者は神に失敗作として捨てられ、各地を流浪する。記憶を失っていた彼はいつしか自分の生まれた理由・捨てられた理由を知り神への怒りを得る。

第二幕は「散兵」
傾奇者は自分を超越者と信じ、暗躍する。
人を見下し、周囲を利用しついに彼は「神の心臓」を手に入れた。

第三幕は「国崩」
しかし、その心臓は彼の魂を満たさなかった。
彼の本当の望みは「無名」のときに知った「人の心」。
本当は「人間」になりたかった。
彼がその真の望みを認めるか、それとも認めぬままに終わるのか。
その結末は誰も知らない。
何故なら、この物語はまだ語られている途中だからだ。

本ブログは酒カスが与太話を繰り広げるブログです
主な更新情報はTwitterで行っておりますのでよければそちらのフォローもお願いします。

  • URLをコピーしました!