お代はラヴでけっこう

【原神考察】純水な精霊と純粋な愛と――フィンチの生涯を語る

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風の国モンドの一角にある清泉町と呼ばれる集落。

その名の通り、清らかな泉を中心とした「泉の精霊」の伝説が残る牧歌の町です。

この町には奇跡を起こす「泉の精霊」の伝説がありました。

ディオナの故郷では、「泉の精霊」の伝説が伝わっていた。
精霊は井戸の側で絶望に打ちひしがれていた親子に、救いの手を伸べた。枯れ井戸の中から水を呼び起こし、泉に変えた。
病に侵され虫の息だった子供は、奇跡のような泉の水によって回復した。
当時、人々は次々とこの祝福の泉を一目見ようと訪れ、やがて、泉を囲むようにして集落ができた。これが「清泉町」の誕生である。

―――ディオナ「キャラクターストーリー5」

今の清泉町では、ほとんどの人がその話をただの伝説だと思っていますが、わずかながらに彼女を信じ続けている人もいます。

彼はかつてここで泉の精霊に会ったことがあり、そしてまた再びその声を聞くためにここで待ち続けているのだと。

老人はそう呟くと再び泉の方に向き合います。

彼が本当に泉の精霊に会ったことがあるのか、そしてまた再び会うことはあるのだろうか。

ゲーム配信時から貼られていたこの伏線についに決着のつく日が来ました。

誰も訪れなくなった泉の前に1人佇むフィンチの姿は何を思っていたのでしょうか。

あ、なんか夜には話しかけると芸人みたいな驚き方する詐欺師が1人いるの忘れてました。

純水精霊の巡礼の旅

昔々、とても遠い昔のある日のこと。

フォンテーヌに住まう純水精霊たちは水神エゲリアに仕えていました。

しかし、500年前に世界の外から漆黒が襲来し、テイワット全土を巻き込む災害が起きました。

水神エゲリアはスメールのトゥニギの黒淵へ旅立ち、そしてそこで帰らぬ身となりました。

その後を継いだ新たな水神フリーナは、しかし純水精霊の心を掴めず、苦くなった水から逃れるために精霊たちは各地に去っていくことになります。

ある純水精霊もその一体。彼女はテイワット各地で安住の地を探しますが、どこにもそれは見つかりません。

最終的にモンドを訪れた彼女は、名もなき地の泉でひととき、その身を休ませることにしました。

彼女がそこに住まうことで、泉は甘くなり、そして祝福を帯び——具体的には1秒ごとにHPが1回復(20秒)——ました。

泉の精霊とその祝福は、噂と人々を呼び、いつしかこの地は集落となりました。
これが「清泉町」の始まりです。

「清泉の心」

これは清泉町の狩人たちの誰もが知る伝説の物語、泉の精霊と名も知らない少年との出会いが綴られた。

今からもう数十年も過去のこと。老人が少年であったときほど往時の回想。

黒髪の少年は、願いをかけるために清らかな泉を訪れました。

少年は月光の下で涙し、その純粋な水は水面に映された月を砕きます。

水を通してその感情に触れた精霊は、その人間に好奇心を抱き姿を現しました。

突然の出会いに驚いた少年は、彼女を伝説の泉の精霊と信じ、こう言います。

「あなたは願いを叶えてくれるの?」

ところが精霊は彼の言葉が理解できません。

長い長い旅路の疲れは精霊から知恵と声を奪っていたからです。

ただ頷くしかできなかった精霊を見た少年は喜び去って行きました。

それはただの勘違い。それはただの誤解の仕草。

だけど、これが長い長い……少年にとって本当に長い夢の思い出の始まりとなります。

ボーイ・ミーツ・スピリット

知恵と思考を失った彼女も月光の下でわずかに知恵を戻せる時があります。

あの夜から少年は幾度も泉を訪れ、精霊と逢瀬を交わします。少年は世界の歴史を自身の思い出を、そして自分自身を曝け出します。

無力さに悩む少年の涙を精霊が拭うと、その水を通じて彼女はまた深く彼を理解します。

精霊は其の涙を夢の泉水に浄化し、そして二人は幸せな夢の中で出会い、無言の精霊が語り手となる甘露の時を過ごします。

それは、遥かかなた青い宝石のように輝く水の国と、放浪者となり望郷に駆られる心と、その行末の嘆きを。

彼が自分のために涙を流したように、彼は彼女のために涙を流します。

こうしてお互いを深く理解した二人は親友となりました。

許される想いと決別

そうして幾ときも時が過ぎ。

それは運命の夜、吹いていた夜風が止み、池に映った月が丸くなった時、精霊は現実世界で初めて声を震わせました。

それは哀歌のような優しい声。少年はその旋律に心を奪われます。

繊細で敏感な精霊は、少年の目から、隠しきれない思慕を……決して二人の間であってはならない感情が芽生えていることに気が付きます。

たとえどれだけ通じ合えても

たとえどれだけ想いあっても

彼は人間で彼女は精霊で

彼は定命で彼女は不死で

彼女の瞬きは彼の永遠で

彼女は知っていた。人間の人生という時計の針は決して止まることはないのだと。

それは時計を持たない自分であっても決してどうにもならないことであると。

少年の時計を止めることを望まなかった精霊は彼に拒絶の口づけをし別れを決意した。
しかし、少年はそれを承諾の口づけと理解し、自らの時計を永遠に彼女とともにあることを誓った。

そして夢幻の如くなりて

これは、清泉町の狩人たちの誰もが知る伝説の物語、もう少年でなくなった少年と不老不死の泉の精霊が迎える苦くて切ない結末が綴られている。

時が流れる。
少年は成長し、変わりえぬ精霊は静かに哀歌を歌う。

あの日、彼女は彼から離れた。少年のいる先へと向かわないように。
泉水の音は言葉を発さず、さざ波に砕かれた月も水面の足跡に寄り添わなくなった。
やがて唐突に、泉水の精霊は気づいた。行き先が見つかったって、幸せな一時を過ごせたって、自分は孤独なままだと。

少年ではなくなった少年が精霊の気持ちに気づかず、その孤独を自分のせいにした。
「たぶん彼女は、ただの稚拙な幻夢だったのだ」
清泉の音を聞きながら、彼はたまにそう思った。

ふいに少年が気づいた、たくさんの仲間との出会いと別れを経験したって、たくさんの冒険をしたって、自分は孤独なままだと。

そして数年前と同じように、静かな池に少年の涙が零れ落ちて、水面に映した月を砕いた。
だがそれでも、泉水の精霊は出てこなかった。
彼女は背を向け続けた。永遠に近い命を持つ自分が少年の思慕の念を裏切るより、幼い頃の無垢な夢や遥か遠い異国からの余所者だと思われた方がましだったから。

言い伝えによると、大雨の日に池に落ちる雫の中に、精霊の涙が混じっているらしい。
老いても少年は依然として、こんな戯れ言を信じていた。
不幸なことに、自分の本心と向き合えなかった泉水の精霊にとって、これは戯れ言ではなく事実であったという。

時計は止まらず、しかしぐるぐると円環をえがく

それからまた時計の針は少し進む。

清泉の伝説の後に生まれた思い出、それすらもう新たな物語となってしまう刻下。

夢を信じた少年が夢を彷徨う老人に転じるほど時を経たとき、金髪の旅人が清泉町を訪れました。

空を飛ぶ非常食を連れた不思議な旅人は泉に甘い水を求めてきたのでした。

「俺はフィンチ。見てのとおり年寄りで、みんなにはフィンチじいさんと呼ばれておるよ。」
「まさかお前さんも泉の精霊を探しに来たのか?」

その時、旅人のボトルから突然小さな精霊が飛び出します。その姿を見たフィンチは驚きます。

その精霊はサイズこそ小さいものの、フィンチがかつて見た「彼女」とそっくりだったからです。

やはりあれは夢ではなかった。
そう確信するフィンチに対し、エンドラーは「彼女」はここにいると教えてくれます。

何か伝言はないかと聞かれたフィンチはしばし考えるも、ただよろしく伝えてくれたら結構だとエンドラーに頼みます。

もはや人生の半分以上を彼女に捧げた彼の気持ちは、言葉で言い表せるようなものではなくなってしまったのでしょうか……。

フィンチの前から姿を消しても、今なお精霊は清泉町にとどまっていましたが、彼女はフィンチの前に姿を現すことはありませんでした。

ただ、彼に告げたいことがあると同類に頼みます。

「毎日、ふらふらと前へ進む子供がいる。この世を見定め、自らの一部にする——」
「子供は前へ進み、一生の時を過ごす。」
「私たちとあなたたちの命には大きな違いがある。だから生きている内、互いに理解することはできないだろう。」
「でも私たちの命は、同じものでもある。常に新しい物事や転機を受け入れて、海へと流れる。」
「夜空の星々がすべて消える時、すべての小川と夢は同じ海へと流れ込む。その時、我らは再会するだろう。」
「生命の流れはまだ続く。あなたも立ち止まらず、前へ進んで。」

少年には自分のことは思い出として受け入れ、新たに道を進んで欲しい。
精霊と人の生命の秤はあまりにも差異があるが、それでも「同じ」生命であり、万物の最後は同じところに行きつくのできっとそこで再会できる。
だから、私を追いかけないでと。

変わらぬ彼女にとって自分は永遠に「少年」なのだとフィンチは気が付きました。

でも、もう新たな道を歩めるほど彼は「少年」ではなくなったのです。

フィンチは旅人たちに一人でいさせて欲しいと頼みます。
これだけ待ったのだからもう少し待っても変わらないと言いたげに・・・。

動き出す世界、止まらぬ時計

それから、また少し時が立ち。

金髪の旅人は仲間たちとともにモンドと璃月の合同詩歌大会に参加します。

その中に青い髪と青い目をしたフォンテーヌからの旅行者が参加していました。

カリロエーと名乗る彼女の詩は美しい調の中に寂しげな風情が漂っています。

「万尋の高き雲より上、郁郁たる凄雪の中、孤独の寒地にひとり佇む。聖賢みな、清貧なり。」
      ―——「清心」

大会が進む中で、ノエルはふと「清泉の心」を詩歌に入れて出題します。

「焚き火ぱちぱち、炉暖かくしてお茶香ばしく、胸に抱くは清泉の心。」

その詩歌を聞いたカリロエーは何か思い悩む様子を見せ始めました。

意を決した彼女は、「清泉の心」について皆に尋ねます。


それは人と精霊、決して同じ時を刻めぬ定めを持つ者たちが、すれ違いの誤解を生んだ物語。

もしも、もう一たびチャンスがあれば、精霊は少年の想いに応えるべきなのかと。

ミカは遅すぎる再会は再びの悲しみを生むと答え、パイモンはどれだけ時間が経とうともそれでも会いたいと答える。

答えを聞いても、カリロエーの想い悩みは消えませんでした。

そもそも、それは人に問うことではなく己の心に問うこと。
答えはなく、しかし答えを出さなければならないこと。
人の心を知らぬ精霊が人の心を知りえたとき、どうすべきかどうあるべきか。

時はもうない。人は無限の時間を持たないのだから。
美しくも儚いのが人の定めなのだから。

幻形の原型

大会は進みますが、3日目の朝にカリロエーの姿はありません。

旅人たちが彼女を探しに行くと、魔物に絡まれた彼女の姿を見つけます。

なんとか魔物を追い払った旅人たちが見たのは、人間ではなく精霊の姿に戻った彼女でした。

カリロエーの正体は純水精霊でした——伝説の『清泉の心』に書かれた泉の精霊とは、まさに彼女のことです。

そして長い年月で泉に溶けた人々の夢を感じた彼女は、当時は分かり得なかった人間の感情を理解し、そして逢瀬の願いに溢れていたのです。

同時に取り戻せない時の流れが新たな残酷の種になることを恐れました。

思い悩む彼女に対し、ミカは彼に会ってほしいと願います。

フィンチはこれまで何度も泉の精霊の話をしましたが、その中に後悔や悲しみを一度すら見せたことがなく、ただあなたを待ち望んでいるのだと。

ミカの説得によりカリロエーはフィンチと会うことを決断し、想いを伝えるために詩を書くことにしました。

その詩の名は・・・。

「清泉の心」

遥か彼方より来りし我は 山河を褥に四季で粧う

拠り所となる花園探し 銀砂の月光 共に漂う

歩みを止めよ 風と清泉が囁いた

「休みましょう あなたは旅路に疲れている」
「揺蕩いましょう あなたに落花を飾ってあげる」

朝は渓流に石琴を奏で 夜は夢路に歌吹を聴く

少年の涙がさざ波となり

星のもと 如何なる歌声より甘美に響く

彼は過去とともに万彩の花冠に織り

我はその褒賞に 夢の境界を融かす

「見よ その目から溢れ出でる愛慕を」
「応えよう 夢の覚めぬ間に」

猫とホタルが我を急かすも

人のしらべを解さぬ我が いかにそれと調和できよう

渓流と夢想が海へと流れ 晶蝶が水面を突く須臾に

星河のもと 少年の髪筋は白くなる

我は蹌踉としつつも 人の一切を学び

もろい雲をつなげ柔らかな詩にした

種は土に憧れ 木々は太陽を追いかける

かつての曖昧だったしらべが心に流れる

聴けばそれは ずっとあなたの名を呼んでいたのだ

我が夢を あなたに

あなたの夜が清泉のように甘美であるように

我が心を あなたに

この遅れてきた約束を どうか受け取って

物語は終わる――そして物語は始まる

カリロエーはフィンチに一粒の雫を渡します。それは彼女の心の結晶。

精霊である彼女に実体はなく、人間の姿に居続けることはできません。

しかし、彼女は永遠に清らかな泉に在り、それを持つ限り二人はどれだけ離れておいても心は繋がり、夢で逢えるのだと。

これこそまさに、「清泉の心」…

最後に彼女は一つだけ訂正をします。

人々の間に伝わる物語。その別れの夜の口づけは本当はなかった。

だからこそ、いま彼女は彼に送る。誓約と愛を象徴するこの贈り物を。

こうして長い長い物語——ゲーム的には実装から約3年強——の時を跨いで一つの物語は結末を迎えました。

力を使い切った彼女の姿はもう人の目に見えませんが、フィンチはもう満ち足りた表情をしていました。

清らかな泉に行けばいつでも彼女に会えるのだから。

歩みを止めよと「風」はささやいた

泉の精霊と少年の物語はここで終わりましたが、個人的に気になる点を書いておきます。

今回の物語の結末はウェンティによる誘導があり、最初からカリロエーの正体を知っていたことが示唆されています。

特に強い根拠があるわけではないのですが、カリロエーのムービーを確認すると、彼女を清泉町に留まるように囁いたのは泉と「風」であることと、この時周囲にある花のデザインがVer1.4風花祭で入手できる「見える風」の花と酷似していることから、彼女をこの地にとどめたのはそもそもウェンティではないかと個人的に思っています。

彼女はこの地の全てを愛した

今回のイベントを終えると南側の泉で、カリロエーの歌声を傾聴することができます。

彼女の歌は、実は清泉町のBGMと同じ旋律をしています。

イベント後に追加されたフィンチのセリフに「彼女はここにいる全員を愛してくれておる」というものがあり、彼女はこの地に座した時から、ずっとみなことを見守っていたのだなとか思ったり。

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