今回はスメールの登場キャラクター「アルハイゼン」のキャラデザインがどのような文化的背景に基いて行われたかと言うことについての考察を記事にしました。
この記事は、主に海外コミュニティで取り交わされた議論を個人的な解釈で再構成したものになります。
アルハイゼンの基本ベースは古代エジプトを中心とした衣装デザインと、近代的なアラブの知的理論を組み合わせたキャラクターとして構成されているようです。
アルハイゼンの名前
アルハイゼンの名前の元ネタはアラブの有名な科学者である、イブン・ハイサム(Ibn al-Haitham)をラテン語読みにしたものと考えられています。
イブン・ハイサムは特に光学の諸原理に関する理論が多く、レンズや鏡を使った「光学の父」ともみなされています。
アルハイゼンのモーションや攻撃方法は鏡を利用したものへの結びつきが強く、モチーフとなっているのはほぼ間違いないでしょう。

また、アラブ系では若鷹を「Alhaitham」と呼ぶため、星座と合わせたダブルミーニングを考えていそうです。
ちなみに魔神任務でアルハイゼンが読んでいる書物はアリストテレスの「自然学」ですが、史実のイブン・ハイサムはこの本に対する反駁の本を出版しています。

アルハイゼンの星座
アルハイゼンの星座は隼座です。

隼は帰巣本能が強い鳥族として知られています。

隼はアラブの富裕層のシンボルとなっており、裕福な生活を送っているアルハイゼンのイメージとしても似合っています。
また、彼の星座重は、理論を考えるための筋道を表しています。

直観により生まれた理論について議論し、時には否定しながら解明して判断を下し、構造化(理論の確立)に至るというアルハイゼンらしい星座かなと。
アルハイゼンの年齢
アルハイゼンそのもの年齢に関する言及はありませんが、カーヴェの2歳下であることが分かっています。

カーヴェは自身のデートイベント内で「5歳になっていないころに描いた絵が20年以上前*」「30年前に母が絵を描いた時に生まれていなかった」*と説明しているため、20代後半(25~29歳)であることが分かっています。


**日本語版は「二十年くらい前」と書かれているが、これは誤訳で原語では「二十年以上前」である
*日本語版は「三十年くらい前」と書かれているが、これは誤訳で原語では「三十年前」である。
よって、アルハイゼンの年齢は23~27歳のどこかということになります。
衣裳デザイン
アルハイゼンのデザインで一番目を引くのは、全身にふんだんにあしらわれたホルスの目(或いはウジャトの目)ですね。

ホルスは古代エジプトの天空神でハヤブサの頭部を持った神として描かれており、その目は魔除けと守護を象徴しています。
ウジャトの目はホルスの母である女神イシスの目で、治癒や再生の象徴であり蛇に嚙まれたい人を治癒する力を持つと言われています。
魔神任務では旅人を中心として、アラハイゼンらはナヒーダを救い、蛇の鱗が浮き出る病、魔鱗病を根絶させました。
またデザイン上のモチーフとは異なりますが、同じくエジプト神のトトは知恵の神であり書記の守護者と言われており、イメージ上のモチーフの可能性があります。
全体的な色合いは緑を基調とされており、これはイスラム圏では自然や豊かさを象徴していて、イランでは非常に人気のある色です。
彼が巻いている腰巻はアラビア地方で男性が伝統的に巻かれている衣装ですが、似たようなデザインが多いため、完全に特定することは難しそうです。
個人的にはブルネイのシンジャンが近そうです。

アルハイゼンの履いている膝丈の先のとがったブーツはモンゴルで履かれていたゴタルと呼ばれる系統のもので、このブーツは元々は仏教・ラマ教圏で登場し、後に中東やエジプトでも広まりました。

全身の衣装のいたるところに金メッキが使われていますが、この技術の歴史は非常に古く、古代エジプトでは金メッキの技術をふんだんに使用して、光り輝く装飾品を多数作りだしていました。
日本の金メッキ技術は中国からの伝来ですが、この中国の金メッキ技術もさらに遡れば中東からのものであるとされています。
アルハイゼンの眼もとには化粧が施されていますが、実は現在に伝わるアイライナー(目元の化粧品)の歴史は古代エジプトまで遡れます。

この時代はコールと呼ばれる黒い物質を目元に塗って化粧を施していました。
女性だけではなく男性もアイラインを引いており、その点も歴史的観点から重要ですね。

彼が付けているヘッドホンとケーブルは、腰に付けている鞄内のオーディオプレイヤーと繋がっていて、音楽を聴くだけでなくノイズキャンセリングの機能があり、外界から意識を遮断するための用途として使われています。

天賦名についての考察
アルハイゼンの天賦名はどれも理論や演算に関する内容になっています。
通常攻撃:リトロダクション
リトロダクション(逆行推論)とは、結論となる事象に規則を適用して前提を推論する方法である常に正しいとは言えないが、仮説を作る方法として帰納法とともに重要な手法です。
共相・イデア模写
この天賦には、二つの哲学的理解が含まれています。
まず、イデアとはプラトンが提唱した概念であり、実際の知覚を超越した場所にのみ存在し、想起によってのみ認識できる真の実在のことです。
例えば私たちが考える「正方形」は4隅の長さが完全に同一の四角形のことで、それを脳内でイメージすることは容易いことですが、実際に正方形を作画しようとしてもほんの数ミクロン単位で長さや太さが異なってしまい「完璧な正方形」を書くことはできません。
つまり、この世に「完璧な正方形」は存在しえないにも関わらず、私たちは脳内で「完璧な正方形」をイメージすることはできます。これが「イデア」です。
イデアは現実には存在しないため、私たちが現実世界に投影できるのは、このイデアの現身——すなわち模写にすぎないということです。
もう一つは現実世界から見える物事と言うのは、一人の人間では必ず一つの視点からしか物事を見れないということです。
どれだけ偉大な学者であろうとも、前と後ろの両面を同時に見ることは不可能で、必ず誤謬からは逃れられません。
ちなみにアルハイゼンが自分と真逆の性格であるカーヴェを家に住まわせているのは、この誤謬を少しでも減らすためです。

殊鏡・顕象結縛
顕象とは物事がはっきりと表れた形のことで「物質」とも言われます。
しかし説明文では、「自らが読む一つ一つの文字を敵に回さなければならない」とあるため、これは懐疑論を示しているものと推論できます。

謎林説破
この天賦は英語ではMysteries Laid Bare(謎をさらけ出す)となっています。
推論を重ねた結果、謎を解明した(元素熟知を上昇させる)効果があります。
超越還元律
超越還元律とは、何か一つの理論を証明するのに一つの証拠であれば十分なところを、複数の過剰な証明を用意することです。
アルハイゼンの場合は、その過剰な証明が素材として変換されます。
最後に
アルハイゼンのデザインがどのようなプロセスとインスピレーションによって作られたのか、本当の答えはmiHoYoの手に委ねられています。
私の書いた内容は単に考え過ぎな側面もあるでしょうし、書いたことに間違いがある可能性もあります。
また議論をサポートするために、できるだけ多くの参考文献を追加し、できるだけ正確であるよう努めました。