お代はラヴでけっこう

【漫画感想】「ルックバック」が神漫画だったので藤本タツキのことと一緒に語りたい

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7月19日に「ファイアパンチ」「チェンソーマン」の作者である藤本タツキ先生の新作読み切りが公開された。

予告の段階で大きな反響があったが、最初140ページ超えてるぜって話を聞いて、いやさすがにそれはないだろうと思っていたら本当に140超で度肝を抜かれてしまった。

公開されてすぐにツイッター上のトレンドにも上り、大反響の本作ですが、そのあまりの神漫画っぷりに感想を書きたくなってしまったので記す。

藤野と京本は「藤本」なのか

本作の主役二人の名前を「藤」野と京「本」にしたのはすごく上手いなと思った。

この時点で既に読者には「これって藤本先生のことだよね」というのが伝わるようになっている。

そもそも「漫画家漫画」というのは何も言わなくても作者と同一視されるのが常になっているのだが、先に答えを提示することで読者がすんなりと受け入れられるような構成にしているのだ。

さて、読んでいる途中の雑感として、「すごくまんが道っぽいな」という印象を受けた。田舎のちょっと絵が上手い子どもが「本当に絵が上手い人」にあって衝撃を受けるというのは、あるある話なのだがそのまま二人で漫画の合作をするとは思わなかったが、要するにこれは「藤野と京本は二人で一人の藤本なんですよ」というテーマなのだろうなと思った。

藤本先生は幼少期から絵を描き続けているが、「いかに絵が上手くなるか」というのにこだわっていて、藤野の受けた衝撃とその悔しさをバネに「するというのは実体験だったのだろうなあと。

藤本:それですよね本当に。自分より上手い人がいると悔しいですからね。沙村:上手い人がいると悔しいけど、その人を見て描けばいいわけだからね。
藤本:僕の周りには予備校が無かったので、おじいちゃんおばあちゃんが通ってる絵画教室に通って、隅っこで油絵を描かせてもらっていました。僕はその頃全然絵が上手くなくて。上手くなり始めたのは大学生の頃でした。周りに上手い人が何人かいたので、「四年間でこいつらより上手くならなければ、俺はもうこいつらを殺す」って覚悟で、絵が上手いまま野放しにしてたまるかって思って描いていました。
  ——藤本タツキ×沙村広明「奇跡の対談」より

ちなみに作中では17歳の時に読み切り7本投稿をしているとされていますが、これは高校時代の藤本先生が脳内で連載していた漫画の本数と一致しています。

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僕は中学生のころ、頭の中で雑誌を作って、そこに自分のマンガを7本くらい連載していたんです。「星の息吹」と「微生物伝」と「ファイアソード」と、あとなんだったっけな……。だから話を考えるのは好きなんです。頭の中の連載が最終回を迎えたときに、自分で感動して涙が出そうになったこともあって。そのときは授業中だったんですが、涙を流すと弱い男だと思われて周りにいじめられそうだと思ったのでグッと堪えましたけど。
  —— 「ファイアパンチ」藤本タツキインタビュー

京本は、連載の話をきっかけに「もっと絵が上手くなりたい」と美大に進学するが、藤本先生自体も芸術系の大学に進学している(芸術工科大学なので正確には美大ではないが)。

現実で美術系に進学しつつ、脳内で漫画を連載していたというエピソードを分割しているのだろうなと。

京本刺殺事件のモチーフ

作中では、京本の通う美大に妄想癖の狂人が乱入し、学生たちを殺害。
その中の被害者に京本自身も含まれていた。

これは京アニ事件をモチーフにしているのだろう。

あの犯人も「自分の作品が盗作されている」と主張していたが、作中の犯人も「俺の作品をパクった」というのが動機になっている。

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京本の死は自分が外に出したせいだと後悔する藤野。

これはもう色々な人に指摘されているが、最初のコマに「Don`t」最後のコマに「In Anger」とあり、この間にLuck Backと入れると、「dont look back in anger」となる。

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「Don’t Look Back In Anger」は海外ミュージシャンOasisの楽曲ですが、現在はテロ事件へのアンセムとして有名になっている。

基本的なモチーフは京アニでしょうけど、それに留まらず殺人事件被害者全般へのメッセージとしての意味合いを持たせているのではないでしょうか。

そして、「京本を外に出すきっかけになった漫画」を破り捨ててしまった。

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この漫画は最初に出会ったときに、京本を外に出すきっかけだった。

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何故か、この破り捨てた漫画の中の「出てこないで」というコマだけが過去の京本に届いたため、京本は藤野と出会わない世界線が生まれてしまった。

しかし、こちらの世界線でも京本は結局美大に進学することになったのだが、

こちらの世界線で京本の描いた漫画が、再び元の世界線の藤野の元に届いた。

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タイトルは「背中を見て(ルックバック)」

本筋と関係ない話なんですけど、この4コマ枠線が少しヘタでちょっと斜めになってるんですよね。
初心者は枠線平行に描くの難しいですもんね、こういう表現がほんとすごい。

そして「振り返った(ルックバック)」藤野は壁に掛けられた「藤野歩」のサインを見て、自分が本当はなぜ漫画を描き始めたのかを思い出す。

妄想の中と違い、現実の京本の死は覆らないが、それでも藤野は前を向き、読者に背中を見せて=作品を公開し続ける道を選びました。

講評

この作品を公開されてから、著名な創作者が「頭をぶん殴られたような衝撃を受けた」とコメントしていますが、本当に分かりますねこれ。

「何かを語りたいなら作品で語れ」とは創作者に間に回る金言ですけど、それを実際にここまで昇華した作品っていうのは早々ないんじゃないでしょうか。

創作欲がある人間ほど刺さる作品なので、承認欲求に満ち溢れたツイッタラーで凄まじく引用されているのはむしろ当然のことかなと。

そして、作品単体で見ても、過去と未来のコマの流れがうますぎます。

藤本タツキの映画好きはもうファンなら全員知っていると言っても過言ではないですが、ルックバックは映画を意識して魅せる集大成のような作品です。

これ普通に短編アニメ映画(若しくは実写)になるんじゃないですかね。

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